今では、自宅でも本格的なエスプレッソを楽しめるようになりました。
カフェにとって、これは一見すると脅威に見えるかもしれません。エスプレッソマシンとグラインダー、お気に入りの豆さえ自宅にあれば、毎朝カプチーノを買うためだけにカフェへ立ち寄る必要はなくなるからです。
しかしその一方で、家庭用エスプレッソの普及は新しいタイプのお客様も生み出しています。コーヒーそのものへの関心が高く、抽出方法にもこだわりがあり、カフェで一杯のドリンクを買う以外にもコーヒーにお金をかけるお客様です。
スペシャルティコーヒーの消費拡大にも、こうした傾向は表れています。全米コーヒー協会(National Coffee Association)の調査によると、2025年には米国成人の46%が過去1日の間にスペシャルティコーヒーを飲んでいました。また、スペシャルティコーヒーを飲む人のうち35%が自宅以外でもコーヒーを楽しんでいたのに対し、一般的なコーヒーを飲む人では20%にとどまっています。2026年には、スペシャルティコーヒーを飲む米国成人の割合はさらに47%まで増加しました。
つまり、カフェが考えるべき問いは「どうすればお客様に自宅でコーヒーを淹れさせず、カフェに来てもらえるか」ではありません。「自宅でコーヒーを淹れるようになったお客様にも、引き続き自分たちのコーヒーにお金を使ってもらうにはどうすればよいか」という視点のほうが重要です。
すでに、この考え方をビジネスに取り入れているコーヒーショップもあります。
ホームバリスタも、カフェにとって大切なお客様になり得る
家庭用エスプレッソマシンを購入したからといって、お客様がコーヒーにお金を使わなくなるわけではありません。お金の使い道が変わるだけとも考えられます。
自宅のマシンで使う、より質の高い豆が欲しくなるかもしれません。もっと美味しいエスプレッソの淹れ方を知りたくなるかもしれません。産地や精製方法に興味を持ったり、ラテアートを学んだり、さまざまなコーヒーを飲み比べたり、定期的に新鮮な豆を届けてもらいたいと思ったりすることもあるでしょう。
そこには、カフェにとって新しい売上の機会があります。家庭用マシンの購入を「カフェとの関係の終わり」と考える必要はありません。カフェが持つ知識や専門性を活かせば、お客様がマシンを購入した後のコーヒー体験にも関わり続けることができます。
実際の事例を見てみましょう。
1. Press Coffee:25ドルの講座から定期購入へ
米国アリゾナ州のPress Coffee Roastersでは、フェニックスのロースタリーでほぼ毎週土曜日に、1時間のテイスティング講座「Coffee 101」を開催しています。参加費は25ドル。4種類のコーヒーを飲み比べながら、栽培・精製・焙煎によって味がどう変化するのかを学ぶ内容です。
しかし、ビジネスとして特に興味深いのは、テイスティングが終わった後です。参加者全員に、Pressの新規コーヒー定期購入で使える25ドル分のクレジットが提供されます。講座がそのまま次の購入につながる仕組みです。
興味を持つ → 飲み比べる → 好みのコーヒーを見つける → 定期購入する
お客様は講座を通して自分の好みを知り、その直後に、気に入ったコーヒーを自宅でも楽しむきっかけを得られます。
コーヒー講座とサブスクリプションは別々の商品ではなく、一つの体験から豆の購入、定期購入、定期的な店頭受け取りへと自然につながる設計になっているのです。ここで重要なのは、単に「有料のコーヒー講座を始めること」ではありません。講座の後に、お客様が次に何を購入するのかまで設計しておくことです。
2. Onyx Coffee Lab:コーヒーの知識そのものを商品にする
Onyx Coffee Labは、コーヒー教育をさらに大きなビジネスへと発展させています。一般向けの「Coffee 101」は25ドルで開催され、コーヒーの基礎知識を学びながら、同社が取り扱う複数のコーヒーをカッピング形式で飲み比べます。参加者には、講座終了後にOnyxの定期購入を初めて申し込む際に使える15%割引も提供されています。
現在では、コーヒー愛好家やプロ向けの教育プラットフォームも展開しています。一般のコーヒー愛好家向け「Enthusiast」メンバーシップは、月額19ドル、または年間149ドル。コースライブラリー、ライブ配信、各種資料、コミュニティなどを利用できます。同社のアカデミーによると、これまでに1万人以上が講座を受講しています。
これは、カフェカウンターでドリンクを販売するだけとは、まったく異なるビジネスモデルです。
コーヒーを飲むお客様 → 講座参加者 → 学習者 → 定期購入者 → コミュニティメンバー
カフェが持つ専門知識そのものを商品にすることができるのです。
カフェにはもともと、抽出、ミルクのスチーミング、ブリューイング、味覚について詳しいスタッフがいます。そうした知識を、興味を持つお客様向けの体験として提供すれば、それ自体が新しい収益源になる可能性があります。
3. Doe & Fawn:テイスティングから豆の購入へ自然につなげる
英国のDoe & Fawn Coffee Roastersも、小規模なカフェが取り入れやすいモデルを実践しています。「Cup Tasting & Sensory 101」という体験プログラムは、1人25ポンド。所要時間は約1時間で、最大15名まで参加できます。参加者は複数のコーヒーを飲み比べながら、豆の調達方法や味の違いについて学びます。そして終了後には、ブリューバーやショップへ案内され、商品を割引価格で購入できます。
公表されている1人25ポンドという料金で計算すると、15名満席の場合、チケット販売だけで最大375ポンドの売上になります。さらに、その後の商品購入による売上も期待できます。
この事例で重要なのは、教育だけで体験を終わらせていないことです。参加者は1時間かけてコーヒーの違いを学んだ直後に、商品を購入できる場所へ案内されます。
有料イベント + ガイド付きテイスティング + 商品販売
通常のカフェ利用とは異なり、お客様は「体験」を持ち帰るだけではありません。気に入ったコーヒー豆を購入し、その後何日間も自宅で楽しむことができます。
これらのカフェは、お客様が自宅でコーヒーを淹れることを止めようとしているのではありません。むしろ、「自宅でも、もっと美味しいコーヒーを楽しみたい」というお客様をサポートする存在になっています。競争するのではなく、自宅でのコーヒー体験の中に入り込んでいるのです。
カフェが提供できるのは「一杯のドリンク」だけではない
2人のお客様を比較してみましょう。お客様Aは、カフェで5ドルのラテを1杯購入します。一方、お客様Bは5ドルのラテを購入したあと、テイスティングイベントに参加し、新しい産地のコーヒーと出会い、豆を購入し、最終的には毎月のコーヒー定期購入を始めます。
家庭用エスプレッソマシンを購入したことで、お客様Bがカフェで注文するドリンクの回数は減るかもしれません。しかしその一方で、スペシャルティコーヒー全体に使う金額は増える可能性があります。
だからこそカフェには、「1回来店したときに何杯売れたか」だけでなく、お客様のコーヒー習慣全体の中で自店がどれだけ関われているかという視点が必要です。
お客様が飲むすべてのコーヒーを、カフェで提供する必要はありません。豆を焙煎する。販売する。淹れ方を教える。おすすめする。新しいコーヒーとの出会いをつくる。そして、自宅で飲むためのコーヒーを提供する。カフェが関われる場面は、店舗のカウンター以外にもたくさんあります。
プリントドリンクも、コーヒーとの新しい出会いをサポートできる
プリントドリンクも、こうした体験の中で活用できます。ただし、大切なのは単なる装飾として使うのではなく、お客様の体験をより分かりやすくする役割を持たせることです。
例えば、コーヒーのテイスティングイベントや、産地別の飲み比べセットです。産地やフレーバーの異なる3種類のフォームドリンクを提供するとします。Ripple Maker コーヒープリンターを使えば、それぞれのドリンクのフォーム部分に、
- 生産国
- 精製方法
- テイスティングノート
- テイスティングカードと連動した番号
などをプリントできます。どのカップがエチオピアで、どれがコロンビアだったかをお客様が覚えておく必要はありません。必要な情報を、そのままドリンクの上に載せることができます。
同じ方法は、例えば次のような場面でも活用できます。
- 季節限定コーヒーの飲み比べ
- 新しいローストの発売イベント
- サブスクリプション会員向けテイスティング
- コーヒーセミナーやワークショップ
- 会員や常連のお客様へのパーソナライズサービス
この場合、プリントには明確な役割があります。「今飲んでいるコーヒーが何なのかを理解し、覚えてもらうこと」です。単なる見た目の演出ではなく、コーヒーを学ぶ体験の一部になります。
今日からできること:まずは10名限定のコーヒーテイスティングを開催してみる
いきなり講座、サブスクリプション、物販、テイスティングイベントをすべて始める必要はありません。まずは、小さく始めて結果を測ってみましょう。
例えば、土曜日に10名限定のコーヒーテイスティングを開催するところからスタートできます。参加費は1人20〜30ドル程度、時間は約1時間。店舗ですでに販売している3種類のコーヒーを用意し、飲み比べてもらいます。それぞれの産地、精製方法、味わいの違いを説明し、フォームの上にも情報をプリントすれば、より分かりやすく、記憶に残る体験をつくることができます。
そしてイベントの最後には、必ず「次のアクション」を用意しておきます。例えば、イベントで紹介したコーヒー豆を割引価格で購入できる特典、または初回のコーヒー定期購入に使えるクレジットなどです。
そのうえで、次の4つを測定してみましょう。
- 参加者数:お客様は、有料でもこの体験に参加したいと思ったでしょうか。
- コーヒー豆の購入率:イベント終了後、何人が豆を購入したでしょうか。
- 定期購入への転換率:何人がコーヒーのサブスクリプションを始めたでしょうか。
- 再来店率:イベント参加者のうち、30日以内に何人が再び来店したでしょうか。
こうした数字を測ることで、単に「お客様がイベントを楽しんでくれたか」だけでなく、コーヒーについて学ぶ体験が新しい売上につながったのか、お客様との長期的な関係を強化できたのかまで確認できます。
まとめ:家庭用エスプレッソマシンと競争するのではなく、その一杯に関わる存在になる
家庭用エスプレッソマシンの普及によって、カフェの役割は少しずつ変わっています。しかし、それによってカフェの価値が下がるとは限りません。
自宅でエスプレッソを淹れるお客様こそ、珍しい産地のコーヒーを試したり、カッピングに参加したり、抽出技術を学んだり、新鮮な豆を購入したり、定期購入サービスを利用したりする可能性があります。
目指すべきなのは、自宅のエスプレッソマシンを使わせず、もう一杯ラテを買ってもらうことだけではありません。カフェが、お客様のすべてのコーヒーを淹れる必要はないのです。大切なのは、お客様の「コーヒーのある暮らし」の中に、これからも存在し続けること。そして、自宅でも本格的なコーヒーを楽しむ人が増えている今、その関係はカフェのカウンターを越えて、さらに広がっていく可能性があります。







